写真が上達するコツ
第5回 光の読み方

写真の良し悪しは光の捉え方が大きく左右します。光に「 良い光 」「 悪い光 」はありません。大切なのはあなたが伝えたい事と「 光 」が上手くかみ合っているのか。ということです。今回は「 室内での自然光 」( 部屋に射し込む太陽の光 )で光の選び方を解説します。

■ 光がどこからきているか見極める

大抵の方が部屋のどの場所で撮影しようか悩むと思います。最初のステップとして部屋のカーテンをすべて開け、照明を消すことから始めます。すると普段より暗く感じるかもしれませんが、どの窓からどんな光が入ってくるのか体感できます。さんさんと直射日光が差す窓辺もあれば、隣の建物が近くて薄暗い光しか入らない部屋もあるかもしれません。でも心配は無用です。その部屋にどんな光が入ってくるのか理解すればテーマに合った写真が撮ることができるようになります。
肝心なのはあなたが撮りたいと思ったテーマ( 動機 )と光がマッチしているかどうかです。では、光がどこからきているか見極めるために、まずは日中に窓のある室内で花の写真を撮ってみましょう。

 

▼写真1

オレンジのガーベラの花を用意しました。鮮やかな色彩で「 元気が出る花 」だと思ったので、「 元気が出る花 」をテーマとして撮影することにしました。

最初は、部屋の窓から離れて窓に背を向けてセッティングしました。

花のフェイスが暗く、光に冴えがなくて、ドロっとした雰囲気の仕上がりです。「 元気が出る花 」をテーマとして撮影した写真としてはマッチしているとは思えない写真となってしまいました。

 

▼写真2

撮りたいと思った「 元気が出る花 」を表現するために、次に部屋の窓辺で撮ってみました。

光に方向性があり、花の立体感がしっかりと出て、色も鮮やかです。

今回設定した、「 元気がいい、気分が盛り上がるような写真を撮りたい 」というテーマであるなら「 ▼写真2 」が相応しいと言えるでしょう。

「 ▼写真1 」がダメな写真というわけではありません。設定したテーマ( 動機 )と光がマッチしていないのが問題なのです。

 

撮影に使った部屋を図解しました。「 ▼図1 」

▼図1

■ 反射光を見極める

部屋に入ってくる光が近隣の建物や樹木に影響され、色かぶりするケースがあります。
例えば赤いレンガの建物が隣にあると太陽光が反射して赤い光がこちらの室内に差し込むことになります。あまり極端に色かぶりしているようならカメラの色温度補正だけでは補えきれず撮影に不向きかもしれませんが、それは稀なケースだと思います。

また、室内の天井や壁、そして床の色も反射して被写体に影響することも考えられます。
ですがこれらの理由で「 撮影に不向き 」と決めつけなくてもいいのです。その部屋で撮った、あなたらしい写真として演出されることもあるからです。大切なのは「自身の撮影環境をよく把握する」ことです。

また、室内に限りませんが気をつけなければならないのは、自分が着ている洋服の色です。
撮影に集中するあまり、被写体に近づきすぎて自分のシャツの白さがレフ板の役目を果たしてしまうことがあります。意図的なら構いませんが、洋服の色によっては被写体に「 色かぶり 」する恐れがあります。プロカメラマンが黒やグレーなどの反射率の少ない落ち着いた色合いの洋服で撮影することが多いのは、そういう理由もあるからです。

 

▼写真3

ガーベラ撮影と同じように窓から離れたところで撮影しました。ただし、今度は窓に背を向けずに、左横方向から離れた窓の光が被写体である「 紫陽花 」に影響するようにしました。部屋の中央よりやや壁寄りです。( ▼図2の写真3の位置 )

すると紫陽花に窓からの柔らかい光が当たると同時に奥の壁がレフ板の役割をして、窓からの光を反射させ、シャドウ ( 影 )が抑えられました。曇天の屋外のように柔らかい光が再現できています。(写真3)

 

▼写真4

光が強くあたり、鮮やかな発色でコントラストの高い写真に仕上がりました。
ですがどうでしょう。紫陽花を撮るテーマは「 しっとりとした佇まい」でした。光が強いため「 紫陽花 」の「 しっとり感 」が表現できていない写真となりました。

ガーベラ撮影とは異なり、今回は窓から離れた場所で撮った方が、狙い通りのテーマを表現したということになります。

 

紫陽花を撮った図解です。

▼図2

「 光がどこからきているか見極める 」の項でも述べましたが、あくまでもテーマに沿っているか?ということで、どちらの光がいいとか悪いという話ではありません。
また、「 ▼写真3 」の反射光を利用する撮影の際は、上記図2の被写体 ( 今回は紫陽花 )と壁との距離も意識してください。壁が遠いと反射光が弱く、左から入る太陽光の光によるシャドゥ( 影 )が強く出ます。撮影場所を変えながら 「 撮りたいと思ったテーマと光がマッチしている 」場所を考えることが重要です。

■ ハイライトとシャドゥを見極める

このように、写真のライティングはテーマに沿って行われますので一概に「 良い光 」、「 悪い光 」と決めることができません。
被写体に光を当て向き合い、どんな光で撮ると自分の表現したいことと合致するのか、考えてください。
肝心なのはハイライトとシャドウを見極める( 光と影を見極める )ということです。
自然光とその反射光だけでは、「 テーマと光のマッチングが取れない 」場合もあるでしょう。その時はライティング用機材で「 光を創る 」ことになります。詳細な機材の使用方法・テクニックは別の機会に解説したいと思いますが、今回は「 光を創る 」ための代表的な機材について簡単に触れておきましょう。

【 太陽の代わりとしての人工光機材 】

▼写真5

クリップオンストロボ


▼写真6

LEDライト

ストロボとは閃光させる( 瞬間的に発光する )機材のことです。継続的に光を発しないので使用には慣れが必要です。それに対し、LEDライトは常に一定の光をはなちます。最近ではLEDの撮影機材も増えてきました。従来のタングステンライトは電球色の物が多く、また熱を発し、取り扱いに慣れが必要ですがLEDライトは色が太陽光に近く、発熱も少ないので扱いやすい機材です。ストロボ、LEDライト共に一長一短の特徴があります。
人物やペットなど動きのある被写体を写し止めたいときにはストロボが向いています。
商品や料理、花のように動かない被写体に対してじっくりライティングを進めたい時にはLEDライトが向いているでしょう。

【 光をやわらげるための機材 】
・ディフューザー

▼写真7

▼写真8

ディフューザーとは光を拡散し和らげる素材のことです。発光部の前に置き、光を拡散し和らげるもので、写真用品メーカーから色々なものが発売されています。撮影にはトレーシングペーパーなども用いられますが、レースのカーテンを利用することもできます。ただし、光沢のある被写体を撮るときにはレースに模様やカーテンのヒダが映り込むことがあるので注意してください。

【 光を反射させるための機材 】
・ディフューザー

▼写真9

▼写真10

レフ板の「 レフ 」とはレフレクター「 reflector 」の略です。光を反射させ、シャドウ部の光の乏しさを補うボードの事をレフ板と言います。それ自体では光を発しませんから「 光を補う 」というイメージが強いのですが、被写体に近づけすぎるとメインライトよりも強い光を当ててしまう結果になることもあります。
そのため、レフ板の当て方はメインライト並みに配慮が必要で、その当て方はセンスを問われる重要なファクターです。
素材や色も様々で、白、銀が一般的ですが中には金色のものもあります。
コンパクトに折りたためるものなど便利なものがあります。

ストロボ、LEDライト、ディフューザー、レフ板にも多くの種類が存在しています。撮影する被写体・状況・撮りたいイメージによって使い分けが必要です。詳細な解説は次回以降に譲るとして、今回は基本的な使用法を押さえておきましょう。

 

上記の機材を使用した時のイメージ図

▼図3

上のディフューザーの▼写真7と▼写真8はライトに直接装着するタイプです。レースなどの布やトレーシングペーパーを簡易的にライトの前に設置する際は、ライトから充分距離をとり、発熱、発火しないよう注意して下さい。

■ 室内で自然光できれいに撮るコツ

フィルム全盛期、さらにもっと以前はフィルムの感度が低かったので、弱い光で撮影するとスローシャッターになってしまい、撮影が困難でした。ですが今ではデジタルカメラでISO感度の調整ができますから、撮影に相応しい場所か定義するのは「 強い光がたくさん入る場所 」ではなく、「 光の選択肢が多い場所 」といえるかもしれません。
ですから「 大きな窓があるけれど、常に直射日光が当たる空間 」だとかえって表現の幅が狭まってしまいます。
窓に遮光カーテンが付いていると光が入る面積をコントロールできます。さらにレースのカーテンがあれば光の芯の強弱が調整できます。そして部屋の片側だけではなく他の方角にも窓があれば、1日中光を選べて撮影しやすい空間になるでしょう。

自然光は太陽の位置や雲の分量を自由に変えることができません。
この時は写真用品を使用して、窓からの距離を考え、光を和らげたい時は、窓と被写体の間にディフューザーを入れたり、レフ版でシャドウを起こしたりすること( 影の部分を明るくすること )が決め手になります。
レフ板には銀レフや白レフ、形や素材も様々なものが写真用品として販売されていますので自分が扱いやすいものを選ぶと良いでしょう。
「 ディフューザー 」と「 レフ板 」。この2点があれば室内に限らず、撮影の幅が広がりますので、カメラ、レンズ、三脚、の次にこの2つをご用意頂けると良いでしょう。

○物撮り

商品を撮影するには先ず、被写体を観察することから始まります。
フラッシュ光で撮影するには機材の使い方を習得する必要がありますが、自然光はすぐに始められるばかりでなく、日常の生活を切り撮るという意味で自然な作品になります。

▼写真11

飲み残しの水が入ったグラスがそこにいる人と時間を想像させます。


▼写真12

日が沈む頃、お酒の入ったグラス手にしたくなる時間です。

▼写真13

鮮やかな紙マッチの色彩に心を奪われました。これも窓辺で撮影。

○赤ちゃん

▼写真14

お子さんの生誕を機に初めてカメラを購入なさる方も多いのではないでしょうか。
カメラに内蔵されているフラッシュはそれほど光量の強いものではありませんが、生まれたばかりの赤ちゃんに対してフラッシュ撮影は避けたいものです。目に刺激を与えるばかりか、せっかくの睡眠の妨げになってはいけません。
デジタルカメラにはISO感度の設定が調整できますから、ISO感度を上げ、シャッタースピードを速くすることで、ブレを抑え、多少暗い部屋の中でも撮ることができます。

そして子供の撮影の狙いには「可愛く撮る」ことの他に、「日常を記録する」という意味が大きいです。その部屋の様子はどんなだったのか、どのような光に包まれていたのか?
写真は、いま一緒に過ごしている家族のためばかりではなく、遠方のおじいちゃん、おばあちゃん、そして子供が大きくなった時にさらにその子供に語り継ぐためのツールです。
愛情に包まれた貴重なひと時を記録するために「 光 」は重要な要素です。

子供を撮るために「 光 」を選ぶというよりは、子供の写真を撮るうちに光による印象の違いが学べるかもしれません。ぜひ、沢山撮って、優しい光、強い光、しっとりした湿度の感じる光、、、など、自分の作品に自由に取り入れられるようになると、もう上級者ですね。

▼写真15

朝日が当たる部屋で。新しい1日が始まります。

▼写真16

レースのカーテン越しの光が優しさを演出します。

■ まとめ

時間、天候により部屋に入る「 光 」もさまざまです。重要なのは「 撮りたいと思ったテーマ 」をしっかり決め、「 撮りたいイメージ 」を固めることです。その時々の自然光・反射光を見極め、「 撮りたいイメージ 」に近づけることが肝要です。自分の撮りたいテーマに見合った光を選び、コントロールできるようになれば、あなたの空間で狙い通りの写真が撮ることができるでしょう。

著者:高崎 勉(Tsutomu Takasaki)
1967年 富山市生まれ 写真家、広告カメラマン

東京工芸大学短期大学部卒業後(株)アマナを経て1999年独立。主に広告業界で活動し「心に響く商品写真」を追求。プロフェッショナルクリエイター を育成する「Takasaki Seminar」を開催し、後進の育成にも積極的に関わる。第65回毎日広告デザイン賞・最高賞。87th N.Y.ADC 入賞。APAアワード入賞など、受賞多数。作品制作にも積極的に取り組んでおり、2011年の発表以降、年2~3回のペースで写真展開催。NPO法人「日 本の写真文化を海外へプロジェクト」ディレクター。プライベートでは被写体を「商品」から「愛娘」に替えて、写真三昧の日々を過ごす。