写真が上達するコツ
第4回 三脚はなぜ必要か

写真撮影においては構図、露出、ピントの三要素が重要となる。そのどれかひとつの要素がおろそかになってしまっても魅力に欠けた写真となってしまう。もちろん偶然性による写真の面白さも重要な要素ではあるが、緻密に練り上げたクオリティを追求した写真が持つ重厚さや奥行きは深みとなり、万人の目を引く作品となる。

■ 三脚は表現力を広げるために不可欠の機材

写真撮影において重要となる構図、露出、ピントの三要素を的確に決めるためには、基本的な撮影技量と知識が必要となる。撮影者が表現したいイメージを具体的に描き出す構図を取り、被写体の明るさに適した露出を導きだす。そして被写界深度を理解したうえで最適な位置に正確なピント合わせを行う。これらをカメラのシャッターを切る前に正しく行わなければならない。もちろんカメラのオート露出やオートフォーカスなどを利用すれば、これらが撮影者を最大限にアシストしてくれるので、撮影者は被写体の魅力的な瞬間を捉えることに注力することができる。画面の隅々まで意識を行き渡らせ、無駄の無い構図や深めの被写界深度、それに伴う遅いシャッター速度での撮影が必要となる風景撮影では、カメラをしっかりと三脚に据え付けての撮影が向く。手持ち撮影のような自在さは無くなるが、より正確な構図設定とピント合わせが可能なうえ、カメラぶれによる画像の質感劣化を防止することができるからだ。さらに意図的な低速シャッターによる、被写体ぶれを取り入れることで、通常では人の目では見る事の出来ない時間の流れを写真のなかで表現することも可能だ。

一方、動きの速いスポーツ撮影や被写体の反応に即座に応答するポートレート撮影、スナップ撮影などはカメラも手持ちで自在に動きながらのスタイルが向く。

 

▼写真1



▼写真2


日没後のローカル鉄道。里山の無人駅から発車する列車を、三脚に据え付けたカメラで8秒間の長秒露光で撮影した。ISO感度をノイズの出ない基本感度に抑えることで、薄明かりの残る空の青さをクリアに表現すると同時に、ホームから離れる列車のヘッドライトと車窓の明かりを光痕として捉えることで列車の動感が感じられる写真となった。上はその撮影風景

 

▼写真3

豊富な水量を誇る滝の姿を4秒のスローシャッターで撮影。水の流れが白い筋としてつながり動感と存在感が同時に現れる。通常では目にする事ができない光景も、三脚でしっかりと固定されたカメラであれば、カメラぶれをおこすこともなく幻想的な光景として写し出すことができる。

▼写真4

マクロレンズを使用して花に近づきクローズアップ撮影。カメラと花の位置関係を細かく調整して最適なピント位置を探しシャッターを切る。花との距離が極端に短いため、わずかなカメラ位置のずれも構図およびピント位置のずれとなってしまう。それを避けるためにもカメラを三脚に据え付けてのアングル決めが必要となる。低い位置での撮影ではローポジション対応の三脚がおすすめ

 


▼写真5


▼写真6 
三脚使用

▼写真7 
手持ち撮影

三脚が有効なのはスローシャッター撮影だけではない。速いシャッタースピードであっても、カメラぶれを確実に抑制してくれる三脚は効果的だ。最近のデジタルカメラは高画素化が一段と進み、わずかなぶれでさえも写真の質の低下が目立ってしまう。特に望遠撮影においては、ほんの僅かなカメラぶれであっても大きくぶれた写真となってしまうことがある。カメラやレンズに手ぶれ補正機構が搭載された製品も増えているが、それらを過信することなく基本に忠実に撮影することが大切だ。

 

■ 三脚選びの基本

三脚を選ぶ際に重要なのは、使用するカメラ機材の重さに見合うだけの積載可能重量(耐荷重)を持った三脚を選ぶことだ。ただし大は小を兼ねるというものではなく、その撮影目的・撮影機材にあった大きさのものを適切に使用する必要がある。また、三脚の素材の違いによって自重にも差が出てくる。アルミ製のパイプは重量はあるが安定性は高い。
一方カーボン製のパイプは使用機材とのバランスをとる必要があるが比較的軽量で持ち運びには楽だ。

▼写真8

三脚の脚を全て伸ばした状態で、ほぼ目線の高さになるサイズのものを基準とする。センターポールは必要な時以外は伸ばさずに使用することが基本だ。

▼写真9

さらに高さが必要な場合はセンターポールを伸ばすことで高さを得る事が出来る。ただし、伸ばしすぎるとカメラぶれの原因となりやすいので、半分の高さ程度に収めるようにしたい


▼写真10

低いアングルで撮影する場合。必要な高さになるように脚の長さを調整する。三本の脚はしっかりと開いて安定させよう

三脚はその使用目的によって作りも大きさも変わってくる。小型で軽量な三脚は持ち運ぶには非常に楽でよいが、安定性という面ではやはり中型以上のもののほうが上だ。本格的な撮影には中型以上の三脚、旅行などに携行するのであれば小型の三脚を選ぶといった使い分けが重要だ。


▼写真11

小型三脚(上)と中型三脚(下)では、畳んだ状態でこれだけの大きさの違いがある。この小型の三脚は折り畳んだ状態で470mm、質量1,100g。中型三脚は580mm、2,170gとなる。持ち運びやすさでは小型の方が優れるが、安定性では中型のものの方が上だ

▼写真12

脚をすべて伸ばしたところ。小型三脚(左)は約1,300mm、中型三脚(右)は約1,400mmと高さの差はさほどないが、脚パイプの太さなど全体の作りは中型三脚の方がしっかりしていることがわかる

三脚と組み合わせて使用する雲台にもいろいろな種類がある。それぞれの雲台に特徴があるので、それらを理解して選ぶ事が大事だ。


▼写真13

三脚に対して上下方向、左右方向それぞれの軸方向および三脚の台座を軸とするパン回転が可能。各軸方向ごとの微調整が出来る

▼写真14

雲台中心部の球を回転させることによりカメラの向きを自在に変える事ができる。微調整には向かないがワンアクションで全方向にカメラを向けられるのが特徴。

▼写真15

▼写真16


雲台をカメラに取付けるには通常は三脚ネジをカメラのネジ穴にねじ込むことで固定する。その部分にあらかじめ固定用プレートをカメラ側に装着しておき、ワンタッチで雲台に付け外し可能となるクイックシューというものもある。これを使えば雲台からのカメラの取り外しをとても簡単で素早く行うことができる

■ 三脚を使いこなすには

カメラの安定性を大きく向上させる三脚だが、使い方を正しく理解していなければ、その効果を発揮させることは出来ない。不安定な設置はむしろ転倒やカメラぶれの恐れも出てくる。三脚の3本の脚のうち、1本をレンズと同一方向にそろえると安定する。

写真17

三脚の脚はできるだけ太いパイプから優先して伸ばすようにする。先の細いパイプよりも強度が高いからだ。また各段をロックするナットもしくはレバーはしっかりと締め付けよう。締め方が緩いと使用中にカメラの重さで足が縮んでしまう恐れがある

 

写真20

高低差のある場所に三脚を立てる場合は、まず高い側に設置する脚の長さをカメラアングルに合わせる。次に低い側の脚を伸ばして安定する長さに調整する。三脚はエレベーターポールが垂直になるようにするのが基本だ

写真18

ローポジション対応の三脚はセンターポールの下部が取り外せるようになっているものもある。センターポールを短くすることで、三脚の脚を開脚させて地面すれすれにまで下げることができる

 

写真19

三脚の脚は3本ともしっかりと開いて安定させる。また、望遠レンズ使用時などレンズ先端方向に重心が傾く恐れがある場合には三脚の脚のうち一本をレンズ方向に合わせて三脚を立てておくと、万が一重心バランスがレンズ方向に移動したときでも脚が支えとなるので心強い


▼写真21

三脚を高く伸ばして使用する場合や風の強い時など、より安定性をあげたい場合には、三脚にストーンバッグと呼ばれるバッグを取り付けて重しとなるものを入れると三脚の重心が下がり安定性があがる

▼写真22

センターポール下部にフックが用意されている場合は、カメラバッグなどをぶら下げてウエイト代わりにすることもできる。ただし風でバッグが揺れてしまうようだと振動が三脚に伝わってしまうので逆効果となることもあるので注意しよう


▼写真23

三脚の脚の先端部は、接地面に合わせて形状を変えられるようになっているモデルもある。通常は滑りにくいゴム脚を使い、砂場や土、石の多い地面なら地面に刺さるように固定されるスパイクを使用するというように状況に合った形状を選ぼう。

▼写真24

雪上に三脚を設置する場合、そのまま立てると重みで石突き部分が雪の中に沈んでゆく。そのまま撮影を行うとしっかりとカメラの固定ができずに三脚の性能が発揮できない。また、脚部分に無理な力が掛かり最悪脚部が破損する可能性がある。スノーシューを使用する事で脚の沈み込みを防ぎ、雪上でも安定した撮影が行える
<< 写真提供:(株)ベルボン >>


■ まとめ

最新のデジタルカメラには高性能な手ぶれ補正機構が搭載されており、また高感度撮影においての低ノイズ化など、これまでには考えられないようなシーンでも撮影が可能となっている。しかし、やはり「ここぞ」といった撮影においては、しっかりとした三脚を使い確立された構図、正確なピント合わせを行うことで、作品としてのクオリティを上げることが必要だ。さらに手持ち撮影では不可能な長時間露光撮影を行うことにより、人の目では見る事の出来ない世界を写真というかたちで具象化することも出来る。ともすれば面倒なことと思ってしまうかもしれないが、この基本中の基本とも言える三脚を使用した撮影をしっかりと実践することこそが、上質な写真作品を得る近道であることに間違いはない。

著者:礒村浩一(いそむらこういち)

1967年福岡県生まれ。東京写真専門学校(現 東京ビジュアルアーツ)卒。女性ポートレートから風景、建築、舞台、商品など幅広く撮影。全国で作品展を開催するとともに撮影に関するセミナーおよび撮影ツアーの講師を担当。デジタルカメラに関する書籍やWeb誌にも数多く寄稿している。近著「オリンパスOM-Dの撮り方教室 OM-Dで写真表現と仲良くなる(朝日新聞出版社)」「マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド(玄光社)」など。「オリンパスカメラによる写真展・写真家大集合(オリンパスギャラリー大阪2015年6月12~18日)」に作品出展。