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写真が上達するコツ
第3回 構図を意識すると写真が変わる<後編>

何気ない景色でも、構図を意識して撮る位置やレンズの画角を変えるだけで、写真は驚くほどに変化します。今回は前回の三分割構図を基本にした、少しだけ高度な構図を紹介しながら、景色をどのように切り取ると写真が魅力的になるのかを説明していきます。

■ 目に見える景色をより美しくまとめるために

「 目には美しい景色も、カメラに納めるとつまらなくなるのは、安いカメラだからでしょうか、それとも私にセンスと技術がないからでしょうか 」

これは風景やスナップ写真の初心者に向けたセミナーで講師をしているときに、よく受ける質問です。この答えは、カメラの機能や性能の問題でもなければ撮影者のセンスの問題でもありません。実は、「 人の脳が美しい部分だけをさらに美しく記憶する性質がある 」ということが一番の問題なのです。

人の脳というものは実に勝手で都合の良い性質があります。目に飛び込んでくるさまざまな情報の中から、脳は見たくない物を忘れ、美しいと感じたものを強調して記憶します。そんな人の脳に太刀打ちできるカメラはこの世に存在しませんし、これからも作りだされることはないでしょう。そしてさらに筆者はこう考えています。美しいモノを観て美しいと感じることができる人に写真のセンスがないなんてことはありえないと。足りないものがあるとしたら、そのセンスを表現するための手段、つまり写真の技術を知らないだけだということです。

冒頭の質問をしてくる人は、こうした勝手で都合の良い自身の脳の性質を理解せずに、目に映るそのままを何も考えずに撮影しているのです。これでは脳が漠然と描いているイメージを超えることはもちろん、そのイメージに近い写真ですら撮ることはできません。

では、どうしたら自身の頭が「 漠然と描くイメージ 」に近い写真が撮れるようになるのでしょうか。

 

引き算のイメージ構築

▼写真1 失敗例

紅葉の美しさだけに目を奪われ、構図をまったく意識せずに撮った写真。画の中にいろいろな情報が多すぎて魅力的でなくなってしまう典型的な失敗例
 

まず写真1を観て、この写真を撮った場所に実際にいることを想像してみましょう。そして、この風景の中で何を美しいと感じたのかを口にしましょう。紅葉、紅葉と背後の石段の対比、石段に積もった紅葉、はたまた手前の太い幹……なにをどう感じるかは人それぞれです。とにかく美しいと感じたことをいくつでもいいので挙げてみましょう。次に、いくつか口にした美しい事柄を今度はひとつに絞ります。絞った事柄が「 主題 」となります。ここでは「 石段に積もった紅葉 」を主題としましょう。そうしたら、主題にした事柄以外は忘れます。たとえ紅葉と石段の対比が捨てがたいと感じていたとしても思い切って忘れなければなりません。魅力的な写真にするためには、主題を欲張らない方がよいのです。( 欲張ったのに良い画が撮れたりするのが写真の奥深さでもありますが、今は忘れましょう )

最後にやることは、主題を邪魔するものの排除です。写真1の場合は、上から垂れ下がった電線と、手前にある太い幹、白いパイプ、そして石段の右側にある緑の樹木が邪魔になる可能性があります。可能性と書いたのは、人が思い描くイメージによっては入れた方が良いときもあるからです。筆者の場合は、これら4つが邪魔になると感じたので排除することにしました。ただし、手前の太い幹は写真に奥行き感を出してくれる要素にもなりうるので、少しだけ残すことを考えました。

▼写真2 グリッド有りの写真

紅葉に埋もれた普段人が歩かない石段の侘びしさを主題にするため、写真1の撮影位置から少し左に移動し、余計なものをフレームアウトさせ、石段が対角線になるようにフレーミングしなおした写真。
 
図1

黄金分割グリッド 2本の対角線を「 分割線 」とし、他方の分割線の端から引いた垂直線との交点を
「 分割点 」 として使う構図。
この分割点を「 黄金分割点 」と呼ぶ

 

このようにして、主題を絞り込むことと、主題を邪魔する要素を排除しながらイメージを決めていくことを筆者は「 引き算のイメージ構築 」と呼んでいます。多くの場合、引き算しながらイメージを決めた方が魅力的な写真になります。もちろん、こうしたセオリーを知った上で、敢えて欲張る撮影方法もあることを覚えておいてください。

さて、そうやって撮ったのが写真2です。写真1と比べると見せたいモノ、伝えたいことが明確になっているでしょう。電線とパイプ、緑の樹木は、撮影の立ち位置を左斜め前方に1m ほど移動してフレームの外に追いやり、手前の幹は画に安定感と奥行き感を出すために右下に少しだけ残しました。そして主題である「 石段に積もった紅葉 」を強調するために、図1の黄金分割構図を使いました。

 

黄金分割構図

黄金分割構図などと書くとなにやら難しく感じるかもしれませんが、重要なのは対角線である2本の「 分割線 」と4つの「 黄金分割点 」のいずれかに主題を配置することです。写真2の場合は、石段を分割線の上に乗せ、画面を大きく2つに分割( 左側に紅葉の赤、右側に苔むした緑 )しています。分割線に石段を乗せることで石段の存在がより強く押し出され、また画面が2つに分割されることで、画に大きなアクセントが生まれます。さらに、それぞれの黄金分割点に紅葉の明るい赤、暗い石積み、そして中間調の石段を配置してリズムを作っています。このように分割線で画面を分割したり、明暗でリズムを作ることが、魅力的な画作りにとって重要なポイントです。


▼写真3 グリッド有りの写真

100mm のマクロレンズにレンズの繰り出し量を 25mm 増やすエクステンションチューブを付けて撮ったヒメグモのマクロ写真。蜘蛛の糸に付いた朝露を対角線に並べ、ヒメグモを黄金分割点に配置した
( トリミング有 )
 

黄金分割などと書くと少し難しく思えるかもしれませんが、誤解を恐れず単純にしてしまえば「 対角線構図 」です。写真3のヒメグモの写真のように、主題( 蜘蛛 )と副題( 水滴 )を対角線上に配置するだけでもいいのです。主題であるヒメグモの位置は、図1の黄金分割点上です。黄金分割点は、三分割構図の分割点と近い位置にあるので、三分割構図+対角線構図≒黄金分割構図だと考えてもよいでしょう。

黄金分割構図は、写真1のような情報が多いロケーションで、どうフレーミングしたらよいか悩んだときに使ってみましょう。もちろんその際に、余計なモノはフレームアウトすることを忘れずに。

 

※ 注意
以降に登場する構図の名称や定義は筆者独自のものを使っています。一般的に使われている構図の名称や定義と異なるものがあるのでご承知おきください。なお、一般的に使われている構図の名称および定義にもバラツキがあります。

■ 視線を集中させて奥行き感を出す構図

▼図2

三分割法の4つある分割点のうち1つを消失点として、そこに集中線を描くように写真の要素を配置する構図。消失点の置き場所は分割点に拘らなくてもよい
 

消失点構図

次の構図を紹介しましょう。それは図2のような「 消失点構図 」です。消失点とは遠近法で画を描くときに使われる理論上の無限遠点のことです。消失点構図は、現実では平行線になっている要素を消失点に交わる集中線のように描くことで、奥行きが表現できます。ここでは消失点構図で撮ったいくつかの例を紹介しましょう。

▼写真4 グリッド有りの写真 ▼写真5 グリッド有りの写真


杉林の中で焦点距離 14mm の超広角レンズを使って撮った写真。逆光によりシルエットになっている杉木立を集中線にして、覗く青空を消失点に置いたことで、撮影者が置かれている現状と希望が描けた 道頓堀川に並ぶ建築物を集中線にして画面中央に消失点を置いた写真。左右の建築物の新旧、明暗および活気の対比を際立たせるために、消失点を中央に置いた
   

 

▼写真6 グリッド有りの写真

高尾山のケーブルカー最後尾から撮影したトンネル内のスローシャッターによる風景写真。集中線の他に、消失点を中心にした同心円構図も取り入れることで視線の集中化に拍車がかかっている
 

数ある構図の中でも、消失点構図は、否が応でも観る人の目を消失点にひきつけます。それほどインパクトのある写真にできる構図ですので、積極的に使ってみましょう。

消失点構図で重要なのは、消失点に何を配置するのか、または集中線を何を使って表現するのかです。写真4は杉木立の背後にある青空を消失点に、写真6はトンネル出口の暗闇を消失点に置くことで、それぞれ距離的・時間的・心理的未来を表現しています。写真5の場合は消失点ではなく主題を集中線上に置いています。左右の比較させたい被写体にある線を集中線に使うことで、対比、対立を際立たせています。

■ 画にリズムと対比の効果を与える構図

▼図3

同じ形状の被写体を並べるときは、三分割法の4つある分割点のうちの1つに中心となるメインの被写体を配置する。他の被写体はサブとして扱い、配置場所は分割点を意識する必要はない
 

大小パターン構図

次はテーブルフォトやブツ撮りなどでよく使われる構図、「 大小パターン構図 」( 図3 )です。同じような形状をした複数の被写体を並べて撮るときに参考にする構図で、大きさと位置に変化をつけることで画にリズムを作ります。

大小パターン構図は画にリズムをつけるのが主目的ともいえる構図なので、花の集合体など、ややもすると単調になりがちな同形状の複数の被写体を写すときに役立ちます。また、大小パターン構図は、画にリズムをつける目的以外に、複数の被写体を効果的に対比させられる構図でもあります。その場合は写真7写真8のように、同じ被写体でも異質のものを並べると、新旧の対比や時間の経過などを表現できるおもしろい写真になります。

▼写真7 グリッド有りの写真 ▼写真8


綿毛のタンポポをメインとして大きく配置。まだ花のタンポポを奥に配置してぼかすことで強弱とともに新旧のリズムを作った

基本の考えかたは写真7と同じだが、メインの被写体をより大きく扱っている

   

▼写真9

大きさによる変化が期待できないときは、被写界深度によるぼかしをどちらかに与えると良い
 

写真9のように形状も大きさも同じ被写体で、配置を変えても見た目の大きさを変えられないようなときは、無理に大小を意識する必要はありません。リズム感は多少単調になりますが、対角線に配置することで画のまとまりはよくなるはずです。その場合、写真9のように被写界深度によるぼかしや、ライティングによる明暗をつけると画にリズムが生まれます。

■ 景色の中に線を見つけると画がまとまりやすくなる

ここまで写真が上達するための最低限必要なテクニックとして、構図の基本を紹介してきましたが、どんな構図においても共通する重要なポイントは「 線 」を意識することです。これは風景写真やスナップはもちろん、テーブルフォトやポートレートなど、すべての写真のジャンルで同じです。

一言で「 線 」とはいっても、それは実線の場合もあれば、目には見えない線( 目線や、人、モノなどが進む方向など )であったりします。たとえば、第1回記事写真5では、猫の目線と背後を行く小学生の歩く方向が見えない線、そして、第2回記事の三角構図や今回の記事の対角線構図と消失点構図の集中線は実線です。この「 線 」を景色の中から見つけ出すことが写真上達の第一歩といっても過言ではなく、景色の中から主となる「 線 」を見つけ出したら、これまでに紹介した構図の線に当てはめ、さらに主たる線を邪魔する他の線をフレームアウトなどで排除することが、上手な画作りといえます。

 

▼図4

形式の中にある「 線 」を、S 字を描くように配置する構図
 

S 字構図

こうした「 線 」を意識した構図の中で、これまでとは一線を画す構図の例を2つほど紹介しましょう。まずは「 S 字構図 」( 図4 )です。景色の中に図4のような S 字にカーブする線を探して写真に納めると、構図としてまとまりのある画になるだけではなく、画の中に流れや延々と続く悠久さなどを感じさせることができるようになります。

たとえば渓流やワインディングロードなどを撮るときに S 字構図を使うと、悠久な川の流れやどこまでも続く道のイメージを強調できるというわけです。なにかのイベントなどを待つ人の行列などでも S 字構図が使えれば、単なる行列の写真にとどまらずに、そこに長く続く時間を表現できるはずです。

 

▼写真10 グリッド有りの写真

立ち並ぶ倉庫の屋根のラインと運河縁、そして手前の植物までを S 字構図として捉えた写真。この場合の主題は立ち並ぶ倉庫になる
 

写真10は S 字構図を使って撮った小樽運河の写真ですが、運河自体を S 字で描かずに、運河のほとりに並ぶ倉庫と手前の植物を S 字に見立てて撮影した、ちょっと変わった S 字構図です。S 字に配置する被写体を運河では無く倉庫にすることで、主題は運河から離れ、ほとりに延々と立ち並ぶ倉庫に移っていることがわかることでしょう。これは重要なポイントです。景色の中に線を探し、その線が明確になるような撮影をすると、その線に配置されている被写体が必然的に主題になりやすいということです。つまり、もし写真10を撮るときに運河を主題にしたいと感じたのであれば、運河を S 字上に配置する必要があるわけです。

 

黄金螺旋構図

▼図5

オウムガイの殻に似た、約 17 度ピッチで描かれる対数螺旋を黄金螺旋と呼ぶ。景色の中からこの螺旋に沿った線を探して撮影すると魅力的な景色になる
 
▼写真11 グリッド有りの写真

一見、自由気ままに伸びているようにみえる枝でも、観る角度を変えていくと、枝の伸び方に一定の規則や方向性が見つかることがある。その規則や方向性が黄金螺旋でなくてもかまわない。そこが樹木を魅力的に撮る撮影ポイントになるのは間違い無い
 

最後は「 黄金螺旋構図 」( 図5 )を紹介して終わりにしましょう。

花の咲く樹木の写真を撮ることがあると思いますが、思ったほど魅力的に撮れないと感じたことはありませんか? 実際、樹木を魅力的に撮るのはなかなかに難しいことなのです。自然に伸びた枝々とそれに咲く花は、それ自体はたいへん美しくはあるのですが、何も考えずに四角いフレームへ納めると、途端に魅力を失います。それは、「 線 」を意識していないからなのです。

樹木を撮るときは、花や葉よりも枝の伸び方に意識を配り、そこに「 線 」を探してみましょう。このとき参考にしたい構図が「 黄金螺旋構図 」です。樹木の枝振りが図5のような螺旋に見える位置が見つかったら、そこが絶好の撮影ポイントです。このとき、図5の螺旋のすべてに合致する必要はありません。写真11のように、一部分でも黄金螺旋に合致すればよいのです。黄金螺旋を意識して撮影すると、樹木などの細かな線が入り乱れている被写体を上手にまとめることができます。

 

線を意識した構図には限りがない

代表的な構図の例をピックアップして紹介してきましたが、実際にはもっとたくさんの構図が存在し、ここでそのすべてを紹介することはできません。ただ、このセクションでも書きましたが、どの構図でも景色の中から「 線 」を見つけ出し、その「 線 」をどうフレームに取り込むのかという基本は同じです。写真を上達させるには、初めはなるべく多くの構図を試してみて、その中から自分が好きだと感じる構図を見つけたら、その構図が得意になるまで使い込んでみましょう。そうしていくうちに、それがあなたの写真のあなたらしさになっているはずです。


■ まとめ

第1回でも触れましたが、写真を上達させたければ、まずはその「 写真で何を伝えたいのか 」を決めることが大切です。次に、第2回と今回にわたって紹介してきた「 構図 」というセオリーを覚え、それに沿って撮ってみることが必要です。はじめはなかなか思うようには撮れないと思いますが、繰り返し繰り返し、感じながら考えながら撮り続けていけば、必ず写真は上達します。ときには撮った写真の講評をプロから受けるなどすれば、ますます腕に磨きがかかることと思います。次回以降もさらに素敵な写真を撮られているプロ写真家たちに登場いただき、写真上達のコツを伝授してもらいます。お楽しみに。

著者:薮田 織也( Oliya T. Yabuta )

■ 人物・光景写真家 ■  テレビ番組制作会社、コンピュータ周辺機器メーカーの製品企画と広告制作担当を経て、ライター兼人物写真家に。初心者にわかりやすい解説が得意。 2003 年から StudioGraphics on the Web の創設メンバーとして活動。現在は八王子に住み、光景写真と人物写真を撮りながら、写真のセミナー活動と著作に専念している。